一般社団法人 日本補償コンサルタント協会九州支部長崎県部会
令和4年度用地補償研修会
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(一社)日本補償コンサルタント協会九州支部基準運用専門部会委員
  長崎総合鑑定株式会社 補償担当取締役 幸福 裕之
0.目次
§1.事業用太陽光発電設備の特徴
§2.事業用太陽光発電設備の用地アセス
§3.事業用太陽光発電設備の事例研究
凡例
・太陽光発電設備に関する事業損失等の解説「以下【解説】という」
・太陽光発電設備の費用負担額及び移転料の算定例「以下【算定例】という」
  平成29年4月 国土交通省土地・建設産業局総務課公共用地室
・公共・産業用太陽光発電システム手引書 太陽光発電協会「以下【手引書】という」
太陽光発電の基本情報ほか
一般社団法人 日本補償コンサルタント協会九州支部では令和元年度 通常研修会(12月3日佐賀、10日宮崎)において、「太陽光発電設備の調査・算定(案)」のテーマで出力10kW未満の一般的な規模の太陽光発電設備の調査算定について取り上げました。
太陽光発電設備の基本情報はこの時のテキストをご覧ください。講師は佐賀県部会会員。
翌 令和2年度 通常研修(令和2年12月8日大分、10日長崎)において「事業用太陽光発電設備の調査算定について」のテーマで、出力10kW以上の事業用太陽光発電設備の調査算定について取り上げました。この時のテキストは次のページでご覧になれます。
http://www.be21.ne.jp/201208.htm
今回は、令和2年度研修の内容を再構成・加筆しました。
§1.事業用太陽光発電設備の特徴
●表1 電力会社との一般的な系統連系区分
連系区分 低圧連系 高圧連系 特別高圧連系
設備容量 50kW未満 50kW〜2MW未満 2MW以上
電圧区分 600V以下 600V〜7,000V以下 7,000V越
受変電設備 電力会社:柱上変圧器で降圧して配電
100・200V
単相3線 ・三相3線
配電用変電所から柱上変圧器まで6,600V
需要家:キュービクルを設置して降圧
三相3線
2次変電所から送電線で33,000・66,000V
需要家:変電設備を設置
三相3線 ・中性点
需要家 住宅 ・商店 小規模工場 ・ビル 大規模工場
受変電設備
のイメージ

写真出典
低圧連系(a)
【手引書】p.21
【手引書】p.23
50kW未満の低圧連系:[住宅・商店]電力会社が維持管理も含め変圧器を設置。
50kW以上の高圧連系:[小規模工場・ビル]需要家が自前で受変電設備(キュービクル)を設置し、維持管理も行う。
・太陽光発電設備で売電する場合も同様
低圧連系:発電した電力を低圧のまま送り出し、電力会社が変圧器で昇圧して送電する。
高圧連系:自前の変圧器で昇圧し、電力会社へ送り出す。
・低圧と高圧連系の大きな違い〜発電出力50kW以上は変圧器(キュービクル)が必要
●表2 住宅用太陽光発電設備との違いの整理
連係区分 低圧連系 高圧連系
設備容量 50kW未満 50kW以上
固定買取区分 余剰売電・全量売電 余剰売電・全量売電
概要 住宅用太陽光発電設備(5kW程度)の製品を使って、発電した電力を束ねているイメージ。 モジュールは低圧連系等と同じ
系統連系は事業用設備
●表3 設置場所による整理
設置場所 工場などに併設 野立てで単独
設備容量 50kW未満50kW以上 50kW未満50kW以上
固定買取区分 余剰売電・全量売電 全量売電
概要 既存施設と共に移転 系統連系に時間がかかる
予備調査の際、工場などは、航空写真で太陽光発電設備の有無を確認してください。
●1-1 過積載案件とは
【算定例】p.60 過積載の算定方法
【算定例】過積載とは、パワーコンディショナー(以下「パワコン」という)の出力を超えて、多くのモジュール(「パネル」ともいいますが、今回は「モジュール」で統一します)を設置することです。過積載する理由をを次のグラフで説明します。
表4 過積載のグラフ〜晴天時の発電イメージ
・パワコンの出力を超えた発電分は無駄になりますが、モジュールの出力一杯となるような好天の日は少なく、無駄になるデメリットより、日射量の少ない朝夕や曇天の時でも発電量が増大するメリットが大きいため、モジュールの過積載が主流です。
●1-2 発電出力の申請について 【解説】p.28
・以上のように、モジュールとパワコンの出力は一般的に一致しません。この【解説】p.28では、発電出力の申請はモジュールの出力とパワコンの出力のいずれか小さい方で申請する、と書かれています。どちらで申請したかによって、移転補償金の算定額に影響が出る場合があります。
・この例で系列2・3は「モジュールの出力>パワコンの出力」で過積載です。
●1-3 余剰売電と全量売電の違い
写真1 公共施設の屋上に設置された太陽光発電設備の例(b)
●余剰売電とは、発電した電力のうち、自家消費した後、余った電力のみを売電。
・公共施設や工場などに太陽光発電設備を設置する場合、電力会社との系統連系は済んでおり、既設の受変電設備(キュービクル)に太陽光発電設備をつなぎ込めば済みます。
・全量売電する場合もあり、その配線は既存と全く別系統で組みます。
●全量売電とは、野立ての太陽光発電設備などで発電した電力を全て売電。
・余剰売電は、あくまで需要家がお客様ですが、全量売電は、主客逆転し、電力を受け入れてくれる電力(送配電)会社がお客様です。
・発電事業者(オーナー)は、電力会社に接続契約の申込みをし(買っていただけますか)、接続がOK(電力を売買できる)となっても、近くに配電線(電柱)が無い場合、接続場所〜太陽光発電設備間は、発電事業者が自費で配線する必要があります。つまり太陽光発電設備の適地とは、方位・面積なども重要ですが、配電線の有無も重要な要素です。
●1-4 野立ての太陽光発電設備(低圧連系・出力50kW)の例です(写真は(a))。
写真2 モジュール218W×240枚=52.32kW  ↓直流電力
写真3 パワコン8基(出力制御対応) 写真4 パワコン内部
↓交流電力 ↑通信線(出力制御)
写真5 集電ボックス 写真6 出力制御ユニット
左:集電ボックスでは、パワコン8基の交流電力を束ねます。
右:出力制御ユニットは、計測ユニットと情報収集ユニットから構成されており、インターネットにつながっています。
インターネットでこのページにアクセスし、写真にポインターを乗せると扉が開きます。
↓交流電力
写真7 売電メーター 写真8 系統連系
左:売電メーターと計器用変成器(CT、売電メーターに使用しやすい電圧に降圧する機器)
右:@系統連系柱(発電事業者所有)。足元に集電ボックス、その背面に出力制御ユニットと売電メーターがあります。中央はA九電柱@とAの間のB系統連系の配線は発電事業者負担で九電から請求されます。
システム概要図
§2.事業用太陽光発電設備の用地アセス
●2-1 野立ての太陽光発電設備が移転対象となった場合の問題点
・まずは、道路拡幅に伴う支障状況のモデルケースをご覧ください。
写真9 道路拡幅に伴う支障状況のモデルケース Googleマップに加筆
例:6列に別れたアレイ(モジュールの集合体)のうち1列、約17%が道路拡幅に伴う用地買収に直接支障。支障部分を構内に移転させる余地はありません。なお右側は別画地。
●現地踏査〜標識を確認する
出力20kW以上は次のような標識の掲示義務があります(但し掲示無しの所も多い)。
固定価格買取制度に基づく再生可能エネルギー発電事業の認定発電設備
再生可能エネルギー
発電設備
区分
名称
設備ID D××××15
所在地
発電出力 44.0kW
再生可能エネルギー
発電事業者
氏名
住所
連絡先
保守点検責任者 氏名
連絡先
運転開始年月日 2022年10月21日
事業者情報、発電出力等は当然として、特に運転開始年月日は、設置年度によって売電単価が異なるため、今後の収益減の算定、検討で重要なポイントです。
●標識がない場合〜キュービクルの有無をチェック
あれば高圧連系。無ければ低圧連系
。但し、高圧連系は全体の4%程度なので、多くは低圧連系です。目視で複数のパワコンが確認できれば、分割できる可能性があります。
●前後して航空写真等でモジュールの枚数をカウント
モデルケースですと、1列のアレイは10枚×4枚=40枚で構成。40枚×6列=240枚。
1枚のモジュールの出力は200〜300W。250Wで計算すると、
250W×240枚=60kWとなります。実際は218W×240枚=52.32kWです。
●2-2 工法検討(例示)
次に示すフローチャートは、確立したスタンダードではなく、あくまで例示です。以下、用地アセスで問題になりそうな課題を取り上げ、工法検討の流れをこのフローに沿って説明します。課題は案件毎に異なります。実際の案件に遭遇した場合は、専門業者のアドバイスを受けて適切に対応してください。
図1 太陽光発電設備移転工法検討フローチャート(受注者による案)
 
●2-3 構内(残地)において現状と同様の形態で機能が確保できるか
【判断基準】敷地内に他に空地がある場合、又は太陽光発電設備等を整備(再配置)することによって、現状の機能が確保できるか否か。
・残地に移転する余地がある場合、残地内に支障部分を移転。
固定価格買取制度(以下[FIT」という)
移転場所 申請 売電価格の変更
構内 変更申請 変更なし。モジュールを復元(移設)・再築しても制度上は新規ではなく変更。原則として同じ場所で新たなFIT認定は取得できない。
・系統連系
系統連系は担保されますが、九電柱が道路工事等で移転する場合は、系統連系が一時的に途切れ、売電できない期間が延びる可能性があります。
【再配置での技術的注意点】について、詳しくは令和2年度のテキストをご覧ください。
●2-4 太陽光発電設備の形態等からして、分離(割)が可能か。
【判断基準】【算定例】p.60 一般的には、パワコン単位での移転が想定されます。
 
●分割案@:モジュール40枚が直接支障する例です。モデルケースでは、パワコンが8台あり、モジュールを30枚づつパワコンごとに色分けしました。パワコン1台分が戸建住宅1戸分との見立てです。色分けには既存図や現地確認が必要で、用地アセス時点では分かりませんが、ここでは問題点を理解して頂くため踏み込みました。
現況 移転後の残地
・物理的な移転
移転場所 パワコン モジュール ウエイト
全体 8台 240枚 100%
構内(存置) 6台 180枚 75%
構外移転 2台 60枚 25%
緑色のモジュールに加え、ダイダイ色は直接支障部分と残存部分とが一体なので、パワコン2台分(戸建住宅2戸分)について構外への分割移転が想定されます。
・FIT
移転場所 申請 売電価格の変更
構内 変更申請 2割以上規模縮小すると下がる。令和4年:11円/kWh
構外復元 不可 分割部分の移設について、新規のFITは認められないので、任意による売電。令和4年:任意7円/kWh。
構外再築 新規申請 下がる。令和4年:11円/kWh・買取期間20年。
・系統連系
移転場所 内容
構内 構内(残地)と同じで担保されるが、九電柱の移転は要注意。
構外復元 現実問題として「配電柱があるところまで、場合によっては数キロも系統連系費用の負担」が想定され、移転の隘路となる恐れがある。
接続同意は、待たされる場合があり、実際の案件では、九州電力送配電の営業所に、必要となる期間を確認しておいたほうがよい。
構外再築
●分割案A:次は、モデルケースで用地買収線が縦に入った例です。
現況 移転後の残地
基本的には[分割案@]と同じで、パワコン2台分、モジュール60枚の構外移転が想定され、残地内の配線・架台をアレイごとに整理することとなり、[分割案@]より費用がかかり、発電休止期間も延びます。なお、説明用に簡略化しています。実際は架台の切取り可能位置、パワコンの設置位置などにも影響され、残地のレイアウトは変わります。
●分割案B:[分割案@A]とも残地にはモジュール20枚分を残せる余地があり、配線や場合によってはパワコンを交換して、構外へ分割する規模を2割未満にする案もあります。FITは、次の青文字部分が変わります。
移転場所 申請 売電価格の変更
構内 変更申請 2割未満の出力減であるため、変更なし。
構外復元 不可 分割案@と同じで任意による売電。令和4年:7円/kWh。
構外再築 新規申請 下がる。10kW未満は令和4年:17円/kWh・買取期間10年。
●2-5 構外に太陽光発電設備(施設全体)を設置することができる土地が確保できるか。
【判断基準】
・構外とは当該地より4km圏内とされていますが、太陽光発電設備は一般的に遠隔操作で監視を行い、メンテナンスを行う以外無人であり、移転距離より配電線の有無が重要となるため、各地域の実情等によって柔軟に対応することになります。
・FIT
移転場所 申請 売電価格の変更
構外復元 変更申請 変更なし。収用事業では移転可。
構外再築 新規申請 下がる。11円/kWh・買取期間20年
但し、モジュールを再築しても制度上は変更申請でも可。この場合売電単価は下がらないが、売電期間は当初のまま。
・系統連系
移転場所 内容
構外移転 分割移転の構外と同じ問題が発生し、費用及び期間が読めない。
接続同意に長期間を要する場合がある。FIT申請は、接続同意が前提。
系統連系に加え、そもそも配電線が近い南向き適地があるかという課題があり、構外を妥当な移転先と認定する合理性が見い出せない場合があります。
●2-6 地権者と接触時の注意点
起業者
影響部分を含めた支障部分
又は全体の構外移転
所有者
支障部分の除却(撤去処分)
発電の損失を補填して欲しい
・補償の枠組みでは、移転が前提です。ルールに沿って調査算定を行うと「影響部分を含めた支障部分又は全体の構外移転」となります。
・一方所有者は、刻々と変わるFITをはじめとする法規制や、急速に下がる売電単価やモジュールなど資材費をにらみつつ、さまざまな苦労を乗り越えて設置しており、用地買収を目の前に「移転は無理だ。」と直感します。
・いかに所有者の立場を理解し、補償契約して移転まで結びつけるかが、問題解決の糸口です。
●2-7 §2のまとめ〜移転例の概算比較
上に示したモデルケースの分割案@一部構外復元2割以上、分割案B一部構外復元2割未満、C全面構外復元の試算を行います。なお厳密には復元(移設)と再築の比較も必要ですが、まだ経年の浅いものが多く、明らかに復元が安いためここでは割愛します。
表5 FITの条件設定
経過年数10年、売電単価 2012年36円/kWh、2022年11円/kWh、任意7円/kWh。
移転例 分割案@ 分割案B C全面構外復元
概要 構外移転が2割以上となり、残地の売電単価も下がる。 残地を再配置して、構外移転を2割未満に抑え、残地の売電単価を維持する。 土地の収用に伴う全面的な移転は認められ、売電単価は下がらない
構内出力kW 39.24 45.78 -
構外出力kW 13.08 6.54 52.32
構内売電単価 36円→11円/kWh 36円/kWh(変わらず) -
構外売電単価 36円→7円/kWh 36円→7円/kWh 36円/kWh(変わらず)
表6 概算補償額 年間発電量約65,000kWh。C構外を100とした場合の指数。
移転例 分割案@ 分割案B C全面構外復元
設備関係 24 26 95
収益減 132 20 2
移転雑費 6 6 3
合計 162 52 100
補償額
収益減=(1)移転に伴う発電休止(30日)+(2)売電単価の差×残存期間に対する年金現価率
移転雑費:経済産業省・電力会社 各種申請書作成・代行費用
分割案@のように分割部分が2割以上となると、残地の売電単価も下がり、経済合理性が無く、C全面構外復元に移行するようです。アセスの段階では、買収線が太陽光発電設備の2割以上となり、残地に移転できる余地がない場合は、全面構外移転になる可能性が高いもののあくまで試算の1例とお考えください。
構外移転は、移転場所の選定、系統連系、所有者の理解など乗り越えるべき課題が多いこともご留意ください。
§3.事業用太陽光発電設備の事例研究
●用地ジャーナル2022年(令和4年)7月号 p.4〜9
事例 1/6ページ
所在地:富山県小矢部市蓑輪130(おやべしみのわ)。
道路事業:富山県道48号福光福岡線(ふくみつふくおか)と、県道143号小森谷庄川線(こもりだにしょうかわ)との重複区間の歩道整備。
この事例で表現されている太陽光「パネル」は、以下「モジュール」と書き換え。
同じく「パワーコンディショナー」は「パワコン」に、「売電メーター取付電柱」は「電柱」に省略。
●対象物件の概要
●発電出力350kW(次の@Aの小さい値を発電出力とするルール。50kW以上の高圧連系なので変電設備[キュービクル]必要)
@パワコン出力50kW×7基=350kW
Aモジュール245W×240枚×7系列=411.6kW(約18%の過積載)
●固定価格買取制度(FIT)による全量売電(事例に記載は無く推定)。
事例 2/6ページ
写真10 航空写真 Googleマップに加筆
これは、直近の航空写真ですが、太陽光発電設備設置前らしく、空き地のままです。
番号と矢印は、次から3枚のGoogleストリートビューの撮影方向です。
写真11 Googleストリートビューに加筆
・県道(事業道路)の北側より支障の状況。赤文字は支障設備青文字は支障外の設備
・モジュール32枚に加え、売電に係る要の設備であるパワコン、キュービクル、電柱が直接支障しています。
・県道に沿って電力(送配電)会社の配電線(電柱)があることから、移転後も系統連系(問題なく売電できるか)は問題なさそう。
・キュービクル・電柱は、モジュールに影がかかりにくいよう北よりに設置されています。移転案を考える際も同様の配慮が必要です。
表7 支障の状況
設備 単位 現有規模 直接支障規模 支障率
敷地 u 約4,000u 約200u 5%
建物 2 0 0%
モジュール(245W) 240枚×7系列=1,680枚 32枚 1.9%
パワコン(50kW) 7 3 43%
キュービクル 1 1 100%
電柱 1 1 100%
写真12 Googleストリートビュー 
県道(事業道路)の南側より通路付近を望む。モジュールは平面的に敷き詰められ、架台はありません。廃校の跡地利用で、校舎等は空家になっても取り壊さずにそのままのもよう。建物屋上にもモジュールが敷き詰められているようです。
写真13 Googleストリートビューに加筆 
背後の東側道路より。事例では「全量売電」との記載はありませんが、建物(校舎)には太陽光発電設備とは別に引き込み線(青丸)があることから、太陽光発電設備は全量売電と推測されます。
写真14 Googleストリートビュー 
事例 1/6ページの交通状況の写真の場所(小矢部市興法寺325付近)は整備中らしい。
事例 3/6ページ
・移転案はパワコン単位で検討されています。赤枠は各案で異なる部分黄色マーカーは移設青色マーカーは新設。ここで「営業関係」とは、売電料の減少分を指しているようです。
・C案で構外へ分割する部分の発電出力は50kWなので、キュービクルが不要な低圧連系も選択の余地がありそう。また、営業関係は「低」とありますが、モジュールを構外に分割移設すると、FITの新規申請は出来ず、任意での売電になるため「中」程度になりそう。
事例 4/6ページ
モジュールは、敷地全面に配置されているため、直接支障している1系列は、
A案:モジュールを高出力に交換
B案:支障するモジュール72枚は処分(規模縮小、1系列240枚-復元168枚)
C案:7系列のうち直接支障する1系列を構外へ分割(移設)
の3案が示されています。
事例 5/6ページ(最期の6/6ページは省略)
・3・7系列の支障+関連するモジュール41枚は、いずれの案でも構内再配置することとされています。即ち出力の調整は1系列のみでされています。
・次に、事例で示されていない各案でのFIT上の手続き、売電単価、電力会社の系統連系に係る問題点などを整理します。
表8 各移転案の整理
項目 A案(出力回復案) B案(規模縮小案) C案(分割移転案)
補償額
総合判断 × ×
国の通知(運用の統一) 生産設備は、復元(移設)工法と再築工法が原則であり、A、B案は示されていません。よってA、B案は、起業者による独自算定です。
FIT上の手続き 変更申請(出力減、モジュールの変更)
モジュールを新設しても、制度上は変更。
変更申請(出力減) 構内:変更申請(出力減)
構外:分割移設部分はFITが使えない。
売電単価(FIT) 変更無し。1系列は50kWパワコンに対し、従前58.8kW、従後54kWと過積載の状態は変わらない。 変更無し。 構内:変更無し
構外:任意による売電でかなり下がる。
いずれの案でも構内(残存部分)の出力減は2割未満なので、変更なし。
設備容量 モジュールの規模は4.8kW減。 モジュールの規模は17.64kW減。 全体(構内+構外)として変わらない。
電力送配電会社との系統連系 構内であるため問題無し 同左 構内:問題無し
構外:新規の接続検討になるため、OKとなる期間が読めない。
事例では各案とも移設と再築の比較をして安価な方を採用したとあります。構内の場合、モジュールを移設しても再築しても、FIT上は変更申請なので売電単価は変わりませんが、構外の場合、分割移設部分はFITが使えず営業関係は「中」程度、再築は「FITの新規申請」が可能で、営業関係は「中〜低」程度となり、差異が発生するため、C案(分割移転、分割部分は移設)に加えて、D案(分割移転、分割部分は再築)の比較も望ましいと思われますが、D案も採用案を覆すほどの経済性はないため、結果は変わらないようです。
●B案の規模縮小(支障部分の除却[廃止補償])の問題点
そもそも稼働している施設に対する除却工法は、補償理論の趣旨に反しますが、
・「無駄になった投下費用相当額」か「発電で得られる利益」のどちらを採用すべきか。若しくは両方を計上してよいか。
・仮に営業廃止補償を準用すると、2年分以内の従前の収益相当額または所得相当額ですが、移転に伴う買電価格の低下による収益減は、当初の固定価格買取期間の満了までとされており、期間の整合性。
・収益=売電収入-経費の「経費」は、営業補償と同様の調査をするか。若しくは家賃減収補償の「管理費及び修繕費相当額10%」のように定率を認定するか。
・「買取価格には廃棄費用として5%程度が含まれており、処分費の運用益相当額を対象とする。」とありますが、その対象範囲が明確ではありません。
・【解説】 p.41
・一方、資源エネルギー庁の資料(注)を読み解くと、おおむね「モジュール+架台+スクリュー基礎の解体・撤去+整地+運搬+処分」の範囲のようで、コンクリート基礎は通常の解体費を別途計上すべきと思料されます。
採用案でどのような処理をされたか、先行事例として是非勉強させて頂きたいところです。
注:資料について詳しくは、事業用太陽光発電設備の調査算定に関する参考質疑案>10 太陽光発電設備の除却工法についてをご覧ください。
各セクションのまとめとポイント
§1.事業用太陽光発電設備の特徴
(1)低圧連系は、住宅用5kW程度を数戸〜10戸分束ねたイメージ。逆に言えば1戸分単位で物理的な分割は可能。
(2)50kW以上の高圧連系は、ひとつの小さな発電所。受変電設備(キュービクル)があり、分割の可否、移転工法の検討には、電気に関しより詳しい知識が必要となるため、早めに専門業者のアドバイスを受けたほうがよい。
(3)過積載:パワコンの出力を超えたモジュールを設置する過積載が一般的。発電出力のFIT申請はいずれか小さいほうで申請する。一般的にはパワコンの出力で申請。
(4)発電量は、モジュールの規模で決まる。過積載でもパワコン出力での頭打ちは事実上影響なし。
(5)野立ての全量売電は、電力を受け入れてくれる電力(送配電)会社がお客様
§2.事業用太陽光発電設備の用地アセス
(1)野立ては、キュービクルが不要な50kW未満の低圧連系が96%
(2)工法別整理表(「同上質疑案>10 太陽光発電設備の除却工法について」参照)
工法 移転場所 FIT申請 売電単価 系統連系
構内復元・再築 構内 変更 変更なし 九電柱が道路工事等で移転すると売電休止期間が延びる。
構内残存部分 変更 2割以上規模縮小すると下がる
分割復元部分 不可 任意売電 ・系統連系工事費は、発電事業者が負担し、事後精算。
・接続同意に時間を要する場合があり、電力会社に必要となる期間を確認する。
・配電線が近い南向き適地の検索は難事。
分割再築部分 新規 下がる
全面
構外復元
変更 変更なし
全面
構外再築
新規 下がる
変更 変更なし
(3)買収地が太陽光発電設備の2割以上となり、残地に移転できる余地がない場合は、残存部分の売電単価も下がるため、全面構外移転になる可能性が高い。
§3.事業用太陽光発電設備の事例研究
(1)高圧連系、全量売電、モジュール411.6kW(1,680枚)、パワコン50kW7基=350kW。
(2)直接支障は、敷地5%、モジュール32枚(1.9%)
概要 判断 備考
A出力回復案 モジュールを高出力に交換 × 起業者による独自算定
B規模縮小案 支障するモジュール72枚は処分 同上。稼働中の施設に対する除却工法の妥当性
C分割移転案 直接支障する1系列を構外へ分割 × 国のルールによる原則案
深謝 テキスト作成にあたりご協力頂いた方々
上記、(a)(b)英小文字付画像は、以下の方々・団体にご支援を頂き、また、テキスト作成に多大なご協力を賜りました。改めて深く感謝申し上げます。肩書は令和2年当時。
(a)株式会社 公共補償コンサルタント 代表取締役 花木 貴司様
(日本補償コンサルタント協会九州支部基準運用専門部会委員)
花木委員個人所有の事業用太陽光発電設備(50kW全量売電)を見学(左写真)、画像をテキストに使用させて頂きました。
●NPO環境カウンセリング協会長崎(E-CAN)
理事長 早瀬隆司(長崎大学名誉教授)
(b)一般社団法人 おひさまNet長崎
 
代表理事 宮原和明(長崎総合科学大学名誉教授、左写真)
参考資料
●事業用太陽光発電設備の調査算定に関する参考質疑案 令和4年9月
www.be21.ne.jp/221021QA.htm
●環状交差点(ラウンドアバウト)について〜西彼杵道路大串ICが環状交差点だったら
www.be21.ne.jp/201209.htm
●事業用太陽光発電設備の実地調査・概算算定について 令和5年7月用地補償研修会
www.be21.ne.jp/230714.htm
写真15 Morbacher Energielandschaft モールバッハのエネルギー・ランドスケープ
2014年4月ドイツ・モールバッハにて撮影。1995年まで欧州最大の旧米軍弾薬庫145ha(ハウステンボス152haとほぼ同じ広さ)を再生可能エネルギーのフロンティアに。太陽光発電は順次拡張され、2018年現在で4.5MWあるとのこと。
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